先日新患でいらっしゃったアトピー性皮膚炎の方に長々と説教してしまいました。
その患者さんは30代の男性です。
かなりの重症の方でした。
発症してしばらくは病院に通院していたようですが、
最近10年弱は実家の母親が近所の病院で薬だけ処方してもらい、
それを送ってもらって使っていたそうです。
その10年近くの間、一度も診察を受けていません。
2種類の外用剤を適当に使用していたようです。
薬の内容についてはわからないと答えていました。

これだけの話を聞いて、
久しぶりに強い怒りを覚えました。

話だけを聞くと
親切な医者と子供のためにと一生懸命になっている母親がいるだけで
そんなに怒りを覚える必要はないと思うかもしれません。
しかし、個々で登場する「本人」「母親」「医者」の3者はそれぞれに問題があります。

「本人」は30歳にもなって親に面倒を見てもらうようでは自立できていません。
面倒くさいかもしれませんが、体調管理は自己責任です。
しかし、個の3者の中ではある意味最大の被害者かもしれません。
「母親」はやはり過保護と言わざるを得ないでしょう。
かわいい息子を思う気持ちはわかりますが、結果として子供の自立を阻害しています。
「医者」がこの中ではもっとも問題があります。
診察も行わず、10年近くにわたって同じ薬を投薬し続けていることです。
最初は1度くらいは診察したかもしれませんが、その後は母親の報告を聞きながら投薬していたのでしょう。しかし、皮膚科医の仕事はきちんと皮膚の症状を目で確認してその病状に応じた投薬や指導を行うべきです。
医師は医師法により診察を行わずに投薬することは禁じられていますが、やむを得ず投薬に応じる場合もあります。しかし、その場合でも最近の病状が把握できていて、問題ないから投薬を行うわけです。
この「医者」は病状を正確に把握できていたはずがないのです。それなのに母親の求めに応じてだらだらと長期間にわたって投薬し続けています。
そこに責任ある医師としての仕事はありません。
本来ならば、そのような母親の要求に対して、子息がちゃんと診察を受けるように促さなければいけません。薬が病状に適切であるのか、適切に使用されているか、副作用が出ていないかなどチェックしなければいけないことはたくさんあります。

だからこの「本人」も「母親」もある意味この「医者」の犠牲者なのかもしれません。

世の中には患者の要求に対して無条件で投薬する医師がいます。
忙しい患者さんや診察が面倒だと言う患者さんにとって見れば求めに応じて簡単に薬を出してくれる医師はありがたい存在かもしれません。
しかし、敢えて患者のために苦言を伝えることは医師の責任だと思います。